香薬へのこだわり
『邪気を祓い清浄を保つ』
「香は薬であり、薬は香であった」
名香蘭奢待を所蔵する奈良東大寺の正倉院に薬種目録という所蔵帳が現存しています。
その中に漢方薬で使われる薬と同列に沈香・白檀・丁字・麝香などの香材料が明記されています。
この時代「香りと薬」は同じ仲間として扱われていました。
それらを総称して「香薬」といいます。
春香堂初代、小川栄次郎は漢方薬問屋に丁稚奉公の後、大正十年に漢方薬業として独立しました。
たまたま近隣大須界隈のご住職方々から請われ漢方薬材料を利用したお香の調合を生業としたことが始まりで、現在の薫物香料業に至っています。
このことからも香と薬がとても密接な関係にあることが分かります。
【薬玉(くすだま)の起源】
旧暦の五月五日端午の節句は、「盛夏」です。
今の暦でおよそ6月の中旬頃、うっとうしい梅雨の季節です。
この頃になると蒸し暑さも増し、食べ物も腐りやすくなり、食中毒を引き起こしたり、疫病が猛威を奮いました。
それ故にこの季節に「薬玉」を部屋の柱に掛けました。中国の唐から渡来したこの風習の「薬玉」の中身は元来漢方生薬だったのです
室内の雑菌を除去し、清浄を保ち、疫病の伝染を防ぐとされました。
「薬玉」はお呪いとして部屋の柱に掛け、病の全快を願いました。
夏を過ぎ無事に乗り越えたことで、その祈願成就の意味で「薬玉」を割ったのです。
現代では、トンネル工事や橋梁の開通式、また優勝の記念に割る「薬玉」も安全祈願と、そして祈願成就の意味で式典に用いられています。
酒蔵の表に吊られる「薬玉」も除菌効果の高い杉の葉で造られた玉です。
やはり起源は同じなのです。
【丈夫で元気な子が育つようにというお呪い】
また端午の節句は現在の子供の日です。
この日のお風呂に菖蒲の葉を入れます。お湯の熱さで菖蒲の香りがプーンと鼻をつきます。
除菌効果のあるこのかおりを吸い込むことで免疫力の弱い子供の健康を願いました。
これも「香薬」効果のひとつで日本の伝統的なアロマテラピーなのです。
伝統的な天然香料についてわかりやすく説明してきます。
天然香料について
沈香 agarwood
インドシナ、マレー半島、インドネシアの一部等の熱帯高原地帯で採取されるアキラリア属(フトモモ目沈丁花科)の木で
様々な外的要因によって木質部にある種のバクテリアが付着し、樹脂部が黒く生成された部分。
比重が重く水に沈むことから沈水香とも呼ばれた。
ワシントン条約により特例を除き輸出入禁止になっている。
漢方薬では鎮静剤とされ、六神丸などに使われてきました。
白檀 sandalwood
インド、インドネシア、マレーシア等で伐採される木の芯材。
古くから日本に渡来し、薫物だけでなく、仏教彫刻、扇など工芸品等に使用されている。
丁字 clove
フトモモ科の丁子の花蕾を乾燥させたもの。
モルッカ諸島、ザンジバル等で産出され、防腐剤や胃薬として、また江戸時代には痺れ薬として歯痛にも用いられていた。
甘松 spikenard
ヒマラヤから中国西南部の高山地帯に生えるオミナエシ科の多年草の根茎を乾燥させたもの。
健胃薬としても用いられている。
大茴香 staranise
中国南部、台湾、ベトナム北部に分布するシキミ科の常緑樹の実を乾燥させたもの。
八角茴香とも呼ばれ、中華料理には欠かせない香辛料。
この香料成分の研究によってインフルエンザの特効薬「タミフル」が開発されたといわれている。
桂皮 sinnamon
肉桂(クスキノ科)の樹皮を乾燥させたもの。
中国南部、ベトナム、スリランカ、インド等で産出されている。
健胃薬としても、又お菓子などのスパイスとしても親しまれている。
霍香 patchouly
パチュリというシソ科の多年草の葉を乾燥させたもの。
インドネシア、中国等で産出される。健胃薬として漢方薬に使用されている。
龍脳 borneol
龍脳樹(フタバガキ科)の芯材の空隙に結晶として産出される。
スマトラ島・ボルネオ島・マレー半島で産出される。
成分のフェノールは防虫剤としても用いられている。
麝香 musk
ヒマラヤ山岳地帯から中国のチベット、雲南、四川、甘粛、陝西、山西省に生息する麝香鹿の雄の香嚢から採取。
近年ではワシントン条約により絶滅危惧種指定となり、一部の特例を除き輸出入できなくなっている。
貝香 incenseshell
紅海、南アフリカのモザンビークの浅海に生息する巻貝の蓋を炒って粉末にしたもの。
香りを保つ効果があり、アラブはもとより、日本においても古くから使用されてきた。
乳香 frankincense
オマーン、ソマリア、インド等に生育するカンラン科ボズウェリア属(Boswellia)の樹木の幹から滲出する樹液を自然乾固したもの。
キリスト教、イスラム教の儀式における焚香料としても知られている。