2006年 沈香「CITES」に思う
一昨年暮れバンコックで開かれたワシントン条約機構会議で、沈香がいよいよCITESという証明書が付属しないと輸出入できなくなりました。
実際には95年にすでに付属第二種に指定されていましたが、当初の指定学名種に限られたものと、そうでない種の区別判断がむずかしく、現実には施行されないまま10年きてしまいました。
そのため、多く採れる種も絶滅危機にある種もすべて流通してきたので、このままではいよいよ絶滅になるとインドネシア政府の提案で、すべての沈香がCITESを必要とすることになってしまったのです。
当然のごとく、このことは沈香流通のいろいろな面に大きく影響を及ぼしています。
量においては質の善し悪しを問わず減少し、価格においてはかつてない高騰をしています。
影響はそればかりではありません。
カリマンタン島(ボルネオ島)のおよそ2/3はインドネシア領です。
この島は四半世紀ほどの間にインドネシア政府の国策の開発でどんどん森が削り取られ、広大なアブラヤシプランテーションに変貌してしまいました。
それまで森の中を悠々と移動しながら暮らしていた沈香採りの民がどうなったか、ご存じでしょうか? 彼らはいつしか森を追われ、一部はそのプランテーションで農薬散布やヤシ油取りに従事していますが、一部の民はオラウータンのように、同じカリマンタン島のマレーシア領側へ移住しました。 オラウータンはマレーシア政府等の手厚い保護を受けていることはテレビ放映などでご存じの方も多いと思いますが、沈香取りの民は残された森の中で少量の沈香取りをして貧困生活を余儀なく強いられています。
それに新たに今、彼らはこの沈香CITESの影響でより困難な日々に直面しています。知識の無さから沈香が売れないのです。
つまり、CITESを必要とする提案とともに、このカリマンタン島の森の姿や元の自然を取り戻さない限り、自然資源を残すべきワシントン条約機構会議の本来の意味にならないと思うのです。
元の自然、元の生態系を回復させることの裏付けがあって、はじめて絶滅危機にある動植物沈香種の保存を謳うべきだと思います。
沈香CITESの無いものを輸出入禁止にすることは絶滅種保護のために必要なことだと思います。
ただ、沈香の採取、流通、加工、そしてその香りを必要とするすべての人に納得のいく方策を示して欲しいと思っています。