1998年 刺身と黄菊
染付の小鉢にマグロの刺身、千切大根の妻と紫蘇の葉一枚、そして黄色の小菊一輪。いわゆるちょつとした「お造り」の定番。熱燗を一杯啜る。
「あーやっぱり僕も日本人かナ」、なんて思いながら・・・
で、なぜ黄色の小菊が一輪なの?ミニバラやシンビジュウムを添えてもいいじゃない。
平安時代、宮中では年中行事が執り行われていました。
年中行事には中国から伝わった五節句があります。
一月一日は元旦、新年を祝います。旧暦で立春とは元旦だったのです。
お正月に飲む屠蘇はそもそも漢方薬のお酒のことでした。
三月三日は桃の節句、女の子のお祝いです。
漢の武帝が長生を願ったところ西王母が天から降りて桃を七つ与えたという故事から、桃の花は邪気を払い長生を養うという云われになりました。
五月五日は端午の節句、男の子のお祝いです。旧暦では盛夏の季節です。
食中毒や疫病にかからないように薬玉を部屋の隅柱に吊りました。また、菖蒲のお湯に入るのもこんなお呪いなのです。
七月七日の七夕には、一年に一度合う彦星と織姫に雅楽や和歌を手向けました。
七夕にみる梶の葉は、短冊に習い事の上達を願い笹の葉に吊す由来で、梶の葉が紙の原料だったのだそうです。
九月九日は
刺身の「お造り」のほんの小さな黄菊一輪に永い永い中国と日本の歴史を感じ一献。
中国では、菊はすぐれた薬効をもつ植物として古くから知られ、4世紀に記された書物には菊が群生している谷を下ってきた水を飲んだ村人たちが長寿になったという「菊水伝説」が登場します。
菊のエッセンスをふくんだ水を飲むと健康で長寿になれる・・そのような重陽節(重陽の節句)における菊の薬効と伝説は、海を渡って日本の平安貴族にもたらされ季節の行事の中へと定着していったのです。