博物館実習 レポート 1998

煉香を作ろう-日本の「香り」いまむかし

加賀久美子・森野勝也・中村真里絵・仲野円香・榊原智恵子・葛西雄介・栗田裕子

はじめに

私達は南山大学で学芸員資格取得を目指す学生です。その必須単位として、博物館実習を履修している。授業は大学の人類学博物館において行われ、私達のグループは興味のある分野について、1998年度の一年間かけて調べ、実際に作成し、最終的にパンフレットの形にレポートをまとめ提出することになった。そこで私達7人は、お香について調べる事になった。このホームページはそのレポートを元に作成したものである。

近年、イギリスのアロマテラピーや、インドのお香の流行や様々な芳香剤や消臭剤の普及など、匂いに対する関心が高まっている。そこで我々はお香を実際に作る事にして、その作り方、海外と日本の「匂い」について調べる3つグループに分かれた。

まず、作り方を調べていくグループは、ガイドブックやインターネットを使って香店を探し、 海外の匂いについて調べるグループはアロマテラピーを中心に調べ、 日本の匂いについて調べるグループは「香道」を中心に調べていった。

T お香の作成

作り方を調べるグループが京都のガイドブックに載っていた鳩居堂に連絡を取り、作り方を伺ったところ、親切にも香料を送って下さった。また、インターネットで調べた大須にある春香堂と連絡を取ってお香を作れるかを尋ねたところ、線香など一般的なお香は難しいと言われ、春香堂に紹介されたのが煉香(ねりこう)だった。

そこで我々は煉香について調べ、作り方が載っていたこれを参考に、資料をもとに「梅が香(うめがか)」という煉香を作ることにした。しかし、実物を知らない事に気づき、煉香は茶道で使われることを事前に調べて知っていたため、大学の茶道部を訪ねて実際に煉香を焚いてもらい、「梅が香」と灰を頂いた。

 早速作ったものを焚いたところ、材料の蜂蜜の匂いが強いうえ燃えにくく、失敗した。そこで、春香堂を訪問して具体的な作り方と焚き方を伺い、秋に作る事にした。なぜ秋かというと、ほかの季節だと湿気でかびが生えるためである。9月23日に春香堂で専務の小川薫さんの指導のもと、煉香を作成した。

〈煉香について〉

香は、奈良時代(6世紀後半)に仏教とともに朝鮮半島経由で日本に伝来したと言われている。正倉院には当時の香が数多く現存しており、また、資料からは当時の貴族の間でどのように香が使われていたかが分かる。主に2通りの使い方があり、1つは香を焚いて部屋にかおりをつける使い方で、もう1つは薬として使われていた。正倉院の薬種目録には香料と思われる薬剤が数多くみられ、当時一般的に服用されていた漢方薬の効果をさらに強めたいという願いから、部屋の柱に香袋を下げて鼻からも香薬のにおいを取り入れていた。他にも、魔除けや疫病の予防のために、香を玉に詰めて部屋につるしたりもした( 薬玉・くすだま)。しかし、もとの用途は仏教の由来に随伴したことから、香が仏前を浄めるという作用をもつというような、宗教的方面から紹介された。

平安時代になると、貴族の間では衣服に香りを染み込ませる臥籠(ふせご)が流行し始めた。また、遊戯としての香は10世紀に始まり「香合(こうあわせ)」や「闘香」という遊びを経てこれを法式化したものが香道となった。17世紀には香道が最盛期を迎えた。

〈煉香の作り方(基本)〉

香には、沈香、白檀、丁子、甘松、貝香、かっ香など様々な香料が混ぜられている。そしてこれらは香りの重さによって3段階に分けられ、これは香水のトップノート、ミドルノート、ラストノートにあたり、香はこの3段階の香りを含むように作られている。トップノートにあたるのは主に甘松、丁子とかっ香で、ミドルノートにあたるのは主に丁子と白檀、ラストノートにあたるのは主に沈香と貝香である。沈香はほぼ全ての香にラストノートとして使われている。香を焚くと、トップノート、ミドルノート、ラストノートの順に匂いがするが、いかにの香りを生かせるかが大切であり、いかに香りをひきたたせるかが煉香の香りとしての目的である。

香りの3段階について

・トップノート 香りの第一印象で、ボトルを直接嗅いだ時に香る。つけてから10分間程度持続する
・ミドルノート 香りの個性が最も強くなる段階。10分から30分持続する。
フローラルなど、そのフレグランスの中で中心となる香り。
・ラストノート 肌につけて2〜3時間後の香り。残り香ともいわれる。 
揮発度が低く、保留性に富んだ香りでできている。
(引用)http://members.xoom.com/ms7/fragrance3.htm
    http://www.osk.3web.ne.jp/~weda/PARFUM/lesson/lesson.html

 

今回作ったのは、室町時代の煉香「仙人(やまびと)」とよばれるもので、

江戸期の資料(出典;『香道』杉本文太郎・雄山閣出版)をもとに、

江戸時代の単位である「朱」(1朱=1gあくまでも仮定)、「分」(1分=6朱=6g)、

「両」(1両=4分=24g)をグラムに換算して作った。


1、用意する材料・道具

a.材料

沈香(じんこう)・・・古来、東洋で最も貴ばれる。ジンチョウゲ科材質中に、黒色の樹脂が沈着した部分を採集したもの。

麝香(じゃこう)・・・ジャコウ鹿の牡の生殖腺分泌物である小さな袋。ジャコウ鹿について、オスの数ははメス数の10分の1で生息地はヒマラヤ山脈・チベット高原。匂いがきつく、妊婦が嗅ぐと流産するといういわれがある。かなり高価。

白檀(びゃくだん)・・・マレー諸島からインドに分布する常緑高木で、木そのものが甘味のある芳香を発する。脂油分は薬用にも使用される。

丁子(ちょうじ)・・・花の咲く前のつぼみを採集して乾燥したもの。辛い刺激性の匂いと味を持っている。産地はタンザニアのザンジバル、マダガスカル。

甘松(かんしょう)・・・オミナエシ科の甘松の根や茎を感想したもので、薫香、匂袋、漢方に用いられる。産地は中国、東インド、ベトナム。

安息香(あんそくこう)・・・タイ、スマトラに産する大木の樹脂で、松ヤニに類し、香りはに似ている。

龍脳(りゅうのう)・・・リュウノウ樹にできるウロコ状に結晶した樹液を沸騰し、精選したのもの。現在は石油化学からも造られる。清涼感のある芳香をもち、や防虫香などに用いられる。

かっ香・・・フィリピン原産のシソ科のカワミドリを乾燥させたもので、薫香、匂袋や漢方に用いられる。

貝香(かいこう)・・・巻き貝の貝殻を砕いて粉末にしたもので、これを合わせることによってに保留性をもたせる。中国南海産の巻き貝が用いられていたが、現在はモザンビーク産のものが多い。

薫陸(くんろく)・・・が化石化したもので、今は代わりに乳香かを用いる。乳香は沈香の香りの幅を出し、全ての香料の匂いを調和させる。 (香料は、香木 や薫物を扱う香店で入手可能)

・蜂蜜、純米酒、白梅酢(白梅の酢)、炭粉(粉末状の炭)

b.道具

計量スプーン(大)、カップ、薬研(やげん)、乳鉢3つ(以下A,B,Cとする)、乳棒、つぼ、はかり

はかり

2、手順

a.ベース(木地)作り・・・ラストノートの部分

@ 麝香の分量(0.6g)量る (麝香は高価なので、今回は本来の10分の1の量でしたが、全体の香には問題無い。)

A 乳鉢Aに麝香(0.6g)と純米酒を適量入れ、擦り合せる。

B 沈香の分量(80g)を量り、乳鉢Aに加えて擦る。(ベースの沈香は良質でなくても良い。)

C 白檀の分量(40g)を量り、乳鉢Aに加えて擦る。

乳鉢と乳棒で練る

D 丁子の分量(20g)を量り、乳鉢Aに加えて擦る。

E乳鉢の中のベースを透明の袋に入れて、固さを見るためにおにぎりを握る要領で両手で握る。(その際に、ベースを手の温度で温め、香りがとばないようにする。)

b.防腐作用と粘り気を出す液の作り方

カップに計量スプーン(大)で、蜂蜜8杯、純米酒16杯、白梅酢4杯を量って混ぜ合わせる。(この液は aとcをなじませるものでもあ る。)

c.本作り・・・ミドルノートの部分

@ 麝香(0.6g)を量って乳鉢Bに入れ、bでつくった液を加えて混ぜる。

A 沈香(48g)を量り、@に加えて混ぜる。

B 丁子(18g)を量り、@に加えて混ぜる。

C 貝香(8g)を量り、@に加えて混ぜる。(現在の香料は、昔の香料と輸入過程が違うために匂いが強いので、本来ならば12g入れるが、今回 は8gにした。)

D 白檀(6g)量り、@に加えて混ぜる。(貝香は焼いて粉にしたものとそのまま粉にしたものの2種類あるが、今回は焼いたものを使用した。 )

E 甘松(2g)を量り、@に加えて混ぜる。

F薫陸(1g)、安息香(0.5g)を量り、これを混ぜたものを@に加えて混ぜる。(薫陸について、現在では安息香が薫陸として使われているため、今回は安息香を混ぜて使った。薫陸自体は粒状なので、薬研で砕き粉末状にする。)

薫陸の粒状

d.仕上げ・・・トップノートの部分

@ 上記で出来たもののゆで卵ぐらいの量(1人分)を乳鉢Cに取り、それに炭粉とトップノートとしての香料(甘松、龍脳、かっ香、シナモン等)を、ゆで卵に塩をふる程度の量を混ぜて、乳棒で空気を抜くようによく混ぜる。(炭を入れた理由は、これらが全体に黒くなれば、まんべんなくよく練られたことが確認できるためと、香を焚く時に火の熱を伝えるつなぎとしての役割があるためである。)

A これらをつぼに入れて密封し、3ヶ月密封して寝かす。(本来はの段階で1年以上寝かす。)

B 使う時は丸薬状にして使う。(1回3粒)

〈 焚き方 〉

直接、香を燃してしまうことを焼香といい、練香を焚く時に灰に空気を入れて、炭団の火力を維持し、炭団の少し離れた位置で香を間接的に熱することを「空焚き」という。




付録〈アロマテラピー〉

冒頭でも述べたが、近年の香りへの関心の高まりの一例としてアロマテラピー(芳香療法)が挙げられる。この「アロマテラピー」という言葉自体は1920年代から30年代にかけて研究活動をしたフランスのルネ・モーリス・ガットフォセによって提唱された新しいものであるが、芳香療法自体は中国、エジプト、インドなどでは3000年以上の歴史があり、<煉香>のところで述べたように、日本でも古くから親しまれてきた療法である。

さて、近年注目されているアロマテラピーは、植物から抽出した揮発性オイル(エッセンシャルオイル)を様々な方法(例えば、水受けに水を張ったアロマポットをあたため、オイルを数滴入れて香りを楽しむなど。)で使用し、そのオイルに含まれる香りで気分をリラックスさせたり、集中力を高めたりと、人間の心と身体と精神の不調を癒したり、活力や健康の増進、美容などに役立てられている。 では、ここで代表的なエッセンシャルオイルの名前と効能について少し取り上げてみる。

ラベンダー・・・最もポピュラーなオイルで、ストレスからくる緊張をほぐし、精神のバランスを整えたり、殺菌作用や沈痛作用がある。

ローズ・・・ホルモンのバランスを整えたり、肌のトラブルを押さえる作用がある。

ペパーミント・・・気持ちを冷静にし、眠気覚まし、消化不良、乗り物酔いや鼻詰まりを押さえる作用がある。

ローズマリー・・・脳の活性化や集中力を高めたり、胃腸系の働きにも役立つ作用がある。

ベルガモット・・・気分をリフレッシュする作用がある。

サンダルウッド(白檀)・・・精神を安定させる作用がある。最上のものは大変高価である。

ユーカリ・・・集中力を高めたり、消毒作用や、抗炎作用がある。喉の痛みや、風邪、花粉症に効果があるといわれている。

イランイラン・・・催淫作用があるとされている。また、精神的ショックや不安、恐怖、怒り等を感じたときに心を穏やかにする効果が ある。

スイートオレンジ・・・落ち込んだ気分を明るくしたり、また消化器系の調子を整える作用もある。


〈 参考文献・資料 〉

・三條西公正 著 1993年『香道・歴史と文学』 淡交社

・杉本文太郎 『香道』 雄山閣出版

・香道文化研究会 編 『香と香道』平成元年 雄山閣出版 

・ 春香堂ホームページ http://www.na.rim.or.jp/~kaoruskd/shunkohdo0.htm

・ アロマテラピーに関するホームページhttp://www.5.big.or.jp/~aroma/aroma0.1.htm